写真と音楽、そして時のかけら：『静謐なる時』が生まれるまで

静謐なる時
作品名：『静謐なる時』 / ロケ地：長野県御射鹿池 / 撮影：2013年秋

写真との出会いと音楽の日々
私が初めてカメラを手にしたのは、10代後半の頃。音楽家として活動を始めたばかりの時期でした。音楽とカメラは、私にとって切り離せない存在でした。音楽仲間たちとステージを共にする傍ら、いつもカメラを持ち歩き、仲間たちと音楽談義と同じくらい熱心に写真談義に花を咲かせたものです。
当時はまだフィルムカメラが主流で、シャッターを切るたびに感じる緊張感と、現像を待つわくわく感が、今でも忘れられません。
その後、音楽活動を続ける中で、縁あって美術業界にも足を踏み入れることになりました。アメリカやヨーロッパの有名オークションやギャラリーと関わる機会が増え、アートとしての写真に触れることも多くなりました。しかし、当時はあくまで仕事としてではなく、純粋に鑑賞する側としての関わりでした。

ギャラリストとしての道、そして写真家への転身
紆余曲折を経て、日本ではまだ写真を専門に扱うギャラリーが少ないことに気づいた私は、「これは自分がやるべきことだ」と強く感じるようになりました。そして、写真家をサポートするギャラリストとしての活動をスタート。現在に至るまで、多くの写真家たちと作品を通じて対話する日々を送っています。
ところが、人生とは不思議なものですね。ギャラリストとして活動する中で、ふとしたタイミングで「自分自身も写真家として作品を発表しよう」という思いが芽生えました。そしてこの度、4月末より開催される『sland Gallery 企画展 / 時のかけら』にて、3作品を展示する運びとなりました。まさか自分が写真家としてデビューする日が来るとは、40年前には想像もしていませんでした。

『静謐なる時』が生まれた背景
今回展示する作品の一つ、『静謐なる時』は、私にとって特別な一枚です。この写真は2013年の秋、長野県の御射鹿池で撮影しました。当時、この場所はまだ訪れる人も少なく、静かな隠れスポットでした。今では多くの人々が訪れる超有名なロケーションとなっていますが、12年前のあの夜は、私とカメラだけがそこにいるような、静寂に包まれた時間でした。
この作品の着想は、日本画の大家、東山魁夷さんの『緑響く』から生まれました。東山さんの作品に描かれた静謐で神秘的な風景に心を奪われ、「こんな場所が実在したら」と漠然と考えていました。調べていくうちに、御射鹿池がそのモデルとなった場所だと知り、いてもたってもいられなくなったのです。場所を特定するのに苦労しましたが、なんとか見つけ出し、真夜中に車を走らせました。
到着したときはまだ夜明け前でしが、徐々に明るくなるにつれて現れた風景は、まさに私が求めていたものそのものでした。
湖面に映る木々、静かな水面が作り出す鏡のような反射、そして深い森の息遣い。すべてが調和し、時が止まったかのような瞬間でした。

撮影の舞台裏
撮影に使用したのは、SIGMA SD1 MerrillとAPO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSMレンズです。このカメラはSIGMAのFoveonセンサーを搭載した唯一無二の存在で、独特の色再現性と解像感が特徴で、御射鹿池の繊細な色彩と質感を捉えるのに最適でした。
夜明け前からの撮影だったため、露出やピント合わせには細心の注意を払いました。湖面の反射がブレないよう、三脚をしっかりと固定し、長時間露光で撮影。暗闇の中で、カメラのファインダーを覗きながら、まるで音楽を奏でるような感覚でシャッターを切ったのを覚えています。

展示への思い
『静謐なる時』は、私にとって「時」を切り取った一枚です。この作品を通じて、観る方々が日常の喧騒から離れ、静かな時間を共有できればと思っています。
『Island Gallery 企画展 / 時のかけら』では、この作品を含む3点を展示します。音楽家として、ギャラリストとして、そして新たに写真家として歩んできた私の「時のかけら」を、ぜひ感じていただければ幸いです。

ロケ地 / 長野県　御射鹿池

＋CAMERA
－SIGMA SD1 Merrill
－APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM

Island Gallery 企画展『時のかけら』
会　期　2025.4.29(火)-5.4(日)
会期中無休入場無料
　　　　open 11:00-18:00 / 最終日17:00まで
会　場　孔雀画廊
　　　　104-0031 東京都中央区京橋2-5-18
　　　　京橋創生館1F
協　賛　マルマン株式会社 Canson Infinity
主　催　Island Gallery

参加アーティスト (順不同・敬称略)
安斉紗織 / Giovanni Piliarvu / 平山孝一 / オイ / 宿谷麻衣 / 石島英雄

※展覧会に関するお問い合わせはIsland Galleryへお願いいたします。

展示作品：『静謐なる時』ほか2点
ぜひ、足をお運びいただければ幸いです。